道を歩けばどこにでもそびえているもの、それは街灯。
街灯ってふだんは気にも留めないけれど、散歩をつづけるようになって、デザインが思いのほかバラエティに富んでいることに気がつきました。
今回は、「街灯」をさがして京の街を歩くことに。
南は伏見から北は賀茂大橋の架かる出町まで、時々電車やバスを使っての超ロングコースとなりました。
城下町の面影が残る商店街の街灯
豊臣秀吉公が築城した伏見城の城下町であり、全国屈指の酒どころでもある伏見からスタート。伏見って酒蔵が並んでいるイメージがありましたが、商店街が多い!
調べてみると、「大手筋商店街」「納屋町商店街」「中書島繁栄会」「風呂屋町商店街」「竜馬通り商店街」「中書島柳町繁栄会」「油掛商店会」の計7つもありました。城下町ゆえ商いが盛んだった、そんな名残なのでしょうか。
伏見散歩、まずは大手筋商店街を歩きます。

「近畿労働金庫 伏見支店」の前を通り過ぎようとしたところ、音楽が鳴り、からくり時計が動き始めました。

酒樽が裏返って千利休の人形が登場し、一礼。その後、次々に伏見ゆかりのキャラクターが姿を現します。坂本龍馬、新選組、豊臣秀吉、饅頭食い人形、伏見城まで。伏見散歩の幕開けにぴったりな演出に気分が上がります。
大手筋商店街の西端にさしかかったあたりで北上してみました。

大手筋商店街の北側にある「風呂屋町商店街」には、素朴な町並みに小粋な街灯が。ユニークな商店街名の由来も気になって調べてみると、界隈にはかつて桶屋が多く存在していたのだそうです。

坂本龍馬が襲撃された船宿・寺田屋の近くにある「竜馬通り商店街」の街灯はレトロモダンなデザイン。この通りは龍馬にちなむ土産店が軒を連ねているのかと思いきや、カフェやスイーツ、トラットリアなどイマドキのおしゃれなお店がいっぱい。新旧が融合したいい雰囲気です。

「油掛商店会」の街灯は、お地蔵さんのイラストが寄り添っていました。通りのすぐ近くに油をかけて祈願すれば願いが叶うと伝わる「油掛地蔵」さんがいらっしゃることにちなむそうです。
柳の緑がさらさらと風に揺れ、旅情を誘う伏見散歩。次は冬の酒蔵開きの時に行こうかな、
と散歩の余韻に浸りつつ、次を目指して近鉄電車に乗ることに。世界遺産の東寺を擁する東寺駅で降りてみました。
歴史的スポットに寄り添う街灯
九条通を歩いていたら、アンテナみたいな変わったデザインの街灯を発見。九条通に架かる歩道橋に上がってみると……

すぐそばには東寺の五重塔がそびえています。高さのある歩道橋の上からじっくり見てみると、てっぺん部分(「相輪(そうりん)」というそうです)や、優美な曲線が五重塔と似ている!きっと古都の景観に配慮したデザインなんですね。
「世界遺産」つながりで、次は大宮通を北上し、西本願寺前の七条通をてくてく。さらに清水寺方面へ歩いていると、五条大橋にユニークな街灯が。

他では見かけないような、色も形も珍しい街灯です。牛若丸と弁慶が出会ったと伝わる橋だから、その逸話にちなむもの?もしかすると、三重搭のある清水寺に続く道だから???と推理してみましたが真実は如何に。
続いては、京都五花街のひとつ、宮川町を経て、祇園へ。石畳の路地に連なる町家を眺めながら歩いていると……

「う」と書かれた軒行燈が。のれんを見ると、うなぎ屋さんでした。老舗から新しいお店まで、お商売をされているお店でよく目にするこういった「軒行燈(のきあんどん)」式の街灯も魅力的ですね。
軒行燈の歴史をひもといてみると、京の街に出現したのは文明開化の頃。看板の役目をもつハイカラな灯りとして流行したのだとか。素材はガラスと銅が主流のようです。
続いては、花見小路から祇園を抜け、平安神宮前の神宮道を歩いていると、通り沿いに京菓子店を発見。

平安殿という名のお店の軒行燈はデコラティブなデザイン。

灯りの存在感が増す夜散歩
岡崎公園の前からは市バスに乗って北上してみることに。
鴨川に架かる賀茂大橋にも、街灯を発見。


これぞ京都の街灯といった風格が漂います。彼方にそびえる比叡山や大文字山とも馴染んでいる!
この橋が造られたのは今から90年前。近代建築の巨匠・武田五一氏が設計したものとのこと。灯りは近年LED化し、ろうそくの灯りのように揺らぐタイプのものが採用されたのだそうです。
ふたたび市バスに乗り、三条通界隈に着いたころにはすっかり日も落ち、空には星が瞬いていました。

京都文化博物館別館の前を通ると、赤レンガが灯りに浮かび上がり、幻想的。時を経た建物ならではのノスタルジーも感じます。

日本銀行京都支店だった建物で、竣工は明治39(1906)年。日本近代建築の父と称される辰野金吾氏による設計で、明治時代を代表する近代建築なのだそう。辰野金吾氏といえば、東京駅の設計もされていますね。どうりで似てる!
三条通から今度は新町通を南下。京町家がいまも多く残る新町通は日が暮れると昼間より京情緒が増すように感じられます。


灯りが落とすやわらかな影を眺めていると、ホッと落ち着きます。
京町家って、守り神の鍾馗さん、端正な格子窓や瓦屋根など、どれをとっても絵になりますが、ひとつとして同じものがないこの軒行燈も魅力。長い時を刻んだ建造物に寄り添うやさしい灯り、心がほどける気がします。
京町家が年々減ってきていると耳にしますが、この街並みがいつまでも受け継がれてほしいものです。
さいごは四条通を経て河原町通へ。四条から五条の間の「河原町グリーン商店街」には、凝ったデザインの街灯が。

調べてみると、河原町通の街路樹であるイチョウをモチーフにしたものだそうです。日が落ちて灯りがともると影絵のようで素敵!
河原町にて、本日の散歩は終了。
街灯ってこんなにもバラエティに富んでいるんですね。

