令和の時代になり、早くも三年。目まぐるしく変わっていく日々のなか、つかの間の現実逃避をと、今回は「昭和レトロ」を探すことに。
どこか心がほっとする、セピア色のノスタルジーを求めて歩きます。
岡崎・1000の灯りがきらめくあかり専門店
のんびり岡崎界隈を歩いていると、京町家に掛かる「あかり専門店」の看板が目に入りました。
手書きの看板には「プロ中のプロが通う店」。うーん、気になる。
くぐり戸からおそるおそる中に入ってみると・・・天井を覆い尽くすほどたくさんの白熱灯がぶらさがっています。
お店の名前は、「タチバナ商会」。店主さんにお話を伺ってみると、現在で4代目とのこと。昨今では蛍光灯が主流ですが、戦前はこのような白熱灯を大切に使っていたのだそうです。
ランプシェードによって異なる表情に、思わず目を奪われます。値札には、ひとつひとつ手書きのコメントが添えられていました。遊び心あるコメントに、思わず顔もほころびます。
静かな時間が流れる店内。壁には、照明器具にまつわる懐かしのポスターがびっしりと貼られていました。
庭先の三輪車やカートは、店主さんが幼いころに遊んだものだそうです。眺めていると、昭和へとタイムスリップした気分に。
昔のものを大事にされる店主さんの心意気に触れ、あたたかい気持ちになりました。
琵琶湖疏水沿いを歩いていくと、京都市動物園の小さな観覧車が見えてきました。さりげなく建つこちら、実は本州最古の観覧車。子どもたちの笑顔をのせて、この日もゆっくりゆっくり、回っていました。
河原町・レトロ建築の窓と老舗喫茶の灯り
河原町界隈へ向かって、引き続きの「昭和レトロ」さがし。さきほどの「タチバナ商会」も元は西木屋町にあったとのこと、古き良きモノが見つかりそうな予感がします。
四条大橋を渡る際、目に留まったのがヴォーリズ建築として知られる「東華菜館」。
1926年築というから、大正15年から昭和元年への改元の年です。激動の昭和をまるごと生き抜いた建物なのだと感慨深くなりました。
いつもはさらりと通り過ぎてしまうけれど、こうして立ち止まって眺めていると、どこを切り取ってもフォトジェニック。
建築の軸は、「スパニッシュ・バロック様式」という様式だそうですが、どこかエキゾチックな雰囲気も漂います。とくに、他ではあまり目にすることのない窓のデザインに心惹かれます。
この窓から鴨川を眺めながら中華料理を楽しめるなんて、なんたる贅沢。そんな風に想いをはせていると・・・あれ?よく見ると、これは窓じゃなくて扉のよう。宙に浮いた、開かずの扉・・・!?
調べてみたところ、夏の風物詩・鴨川納涼床のシーズンに活躍する扉でした。設えられた床席へ出入りするためのものだそうです。
正面には、タコや、貝、奇妙な魚まで、生き物たちの装飾があちらこちらに刻まれていました。
東華菜館を過ぎ、高瀬川のせせらぎを傍らに西木屋町通を歩きます。ひときわおしゃれな外灯を掲げるのは、昭和9年創業の「フランソア喫茶室」です。
多くの著名人たちも愛してやまなかった、この場所。いまの時代でもまったく色褪せないデザインに、昭和初期の文化度の高さを改めて感じました。
続いては、河原町通りを上がって三条通へ。三条名店街のアーケードを抜けると、左手にオレンジ色のレトロビルが出現。
こちらは「1928ビル」。見上げれば星型の窓がふたつ。ずっと眺めていると、顔のように見えてきます。窓がキラキラした目、バルコニーが鼻、玄関が口。ロボットみたいでかわいいですね。
元は毎日新聞社の京都支局で、設計は関西建築界の父と称された、武田五一。窓が星型なのは、毎日新聞社の社章をモチーフにしたからなのだそうです。
現在は、ギャラリーや劇場、カフェが入居するアートな複合施設となっています。エントランスも素敵で、地下へと続く階段に敷かれたタイルも絵になります。
丸太町・昭和で時が止まったかのような洋食屋
さらに北上し、京都府庁前をうろうろ。レトロを探して歩きまわっていると…ありました!昭和感がとめどなくあふれるお店が。
何十年も時が止まっているようなこの洋食店、「白扇」です。
カレーライス、トンカツ、ハンバーグ、エビフライ・・・王道メニューにホッとします。
京都駅・ひなびた飲み屋街とタワー、昭和遺産のコラボ
京都駅界隈まで足を延ばすと、いつしか日も暮れ、空の茜色は次第に藍色へ。周辺の建物が闇へまぎれていく中、ぽっかりと浮かぶ京都タワーを発見。
京都タワーが完成したのは昭和39年というから、今年で57歳。海のない京の都を照らす灯台をイメージしたデザインだそうですが、今宵のタワーはまさに灯台。
タワーの下にある(ように見える)建物は、昭和中期にできた「リド飲食街」です。
コンクリートの通路の両脇に、カウンター席が中心のこぢんまりとしたお店が並んでいます。落ち着いたらハシゴ酒を楽しむぞ、と強く心に誓います。
通路を抜け出ると、目の前にはビジネスホテルがそびえていて、一気に令和の世に引き戻されました。
新しさばかりを追い求めていたのなら、今の世にはもう存在していなかったはずのモノたち。昭和の「よき」を、時代を超えて守り続けてくれた人びとを確かに感じます。そうした心意気に感謝しながらこの日の散歩はゴールとなりました。
詳しい情報は今回の虫眼鏡さんぽスポット(Google Map)で