Vol.21 京都の老舗カフェ その1

Update: 2023.1.30
#虫眼鏡さんぽ

京都の老舗カフェ

昭和のはじめに喫茶文化が花開いた京都。河原町界隈を歩いていると、そんな古き良き時代の面影が香るお店が目に留まります。今回は、河原町~烏丸界隈を巡り、ランチにおやつ、そして珈琲タイムを楽しみました。

呉服屋をリノベーションした喫茶店でランチ【前田珈琲 室町本店】

街ナカのメインストリートの一つ、烏丸通から蛸薬師通へ入るとすぐに、京町家をリノベーションした建物がありました。

前田珈琲
慣れた様子ですっと店に入っていく人も多い

昭和46(1971)年創業の「前田珈琲」です。元小学校の教室を生かした京都芸術センターなど、京都を歩いていると前田珈琲のお店をいくつか見かけますが、こちらが本店。かつて呉服商が軒を連ねて繁栄した室町通や新町通がすぐ近くにあり、こちらの建物も元呉服店。祇園祭の山鉾町内という立地にちなんでのことでしょうか、外壁には鉾を連想するような大きな車輪が描かれていて、白壁がキリリと引き締まって見えます。

SINCE 1971
はためく暖簾に創業年が

ちょうどお昼時。店内に次々と人が吸い込まれていくのにつられ、ランチをすることに。
奥行きのある広々とした店内にはゆったりした皮張りのソファ席やカフェテーブル席が配置されています。今の時代、喫茶店といえば禁煙が主流のようですが、こちらには扉が付いた喫煙席も用意されていて、昔からの常連さんも大切にされていることが伺えます。

カフェテーブル席
カフェテーブル席

手元のお品書きを開くと、フード、ドリンク、そしてスイーツまで、すべてのメニューが豊富。ナポリタンやカレーなど王道メニュー、パン系はサンドイッチからロールパン、トースト、ホットドッグまでバリエーション豊かな品ぞろえです。思わず目移りしてしまいましたが、ミックスサンドと前田珈琲さんの看板というスペシャルブレンド珈琲「龍之介」を注文しました。

ミックスサンド
彩り鮮やかなミックスサンドは創業以来のメニュー

「タマゴサンド」といえば、クラッシュしてマヨネーズとあえたゆで卵をサンドしたものが馴染み深いですが、こちらのタマゴサンドは卵焼き。ふっくらとしてやさしいお味です。シャキシャキのフレッシュサラダもボリュームたっぷりで、お腹がしっかり満たされました。

ケーキ
ショーケースに並ぶケーキ。シンプル・イズ・ベスト!

常連さんらしき紳士が新聞を広げたり、ご婦人方が歓談したり、仕事の合間と思しきスーツ姿の女性がおいしそうにケーキを味わっていたり。気取りのない京都の日常風景を垣間見た、そんなひとときでした。


コーヒー豆
レジ付近ではコーヒー豆も販売
カップ&ソーサー
オリジナルのカップ&ソーサー。お家での珈琲タイムが楽しくなりそう

昔ながらの佇まいを残す甘味処でほっこり【梅園 河原町店】

河原町三条から少し下がったところに佇む「梅園 河原町店」へ。

梅園 河原町店
古き良き昭和レトロな佇まい

こちらは、創業昭和2年の老舗甘味処。新しいお店ができたり、あったはずのお店がいつの間にかなくなっていたり……人や車や時間が絶えず流れ、どんどん景色が変わっていく河原町通のなかで、ここだけ時の流れが止まったかのよう。懐かしい佇まいに和みます。

提灯
提灯には「みたらしだんご」の文字が

間口は小さいけれど、扉を開けると店内は細長く、奥にこぢんまりとしたイートインのスペースがありました。

キッチンスペース
廊下に向かって左手がキッチンスペース

席についてお品書きを開くと、みたらし団子をはじめ、あんみつ、わらび餅、ぜんざい、おしるこなど、これぞ甘味処!なメニューが勢揃い。表のみたらし団子の提灯に惹かれ、この日は、みたらし団子とあんみつのセットを注文しました。

みたらし団子
あと一皿追加しようかな……そんな誘惑にかられる

焼きたてアツアツのみたらし団子は、まんまるではなく俵型。むっちりと弾力があります。香ばしいおこげのついたお団子とコクのあるタレが絶妙にからみあって美味しい♪お団子はお米が原料だから、ランチ代わりにもなりそうな満足感。


つややかなタレ
つややかなタレが食欲をそそります
粒あんがたっぷり
粒あんがたっぷり!セットのミニサイズでもボリュームがあります

あんみつは、粒あんと黒蜜を、こしあんや白蜜に変えることもできるそう。細やかな心遣いがうれしいですね。

黒糖とプレーンの2種の寒天や、白玉、わらび餅ものってなかなかのボリューム。粒あんの皮もやわらかくて口の中に残ることなくほっくりといただけました。
昭和の面影を色濃く残す老舗甘味処。いつかまた来るから、この先もずっとこの場所で変わらず待っていて……そんな想いを胸に、次なる場所へ。


隠れ家のような喫茶店で至福の一杯を【六曜社地下店】

お次は梅園 河原町店から少し北上し三条通の手前にある「六曜社地下店」へ。「Coffee」のレトロモダンなロゴに目が留まりました。

六曜社地下店
風合いのいいタイルは配色も素敵

「六曜社地下店」は昭和25年創業の老舗喫茶店で、1階は地下店の創業から十数年後にオープンしたという「六曜社喫茶店」。一見同じお店のようですが、コーヒー豆が異なるほか、1階はテーブル席のみ、名物マスターがいらっしゃる地下店にはテーブル席のほかカウンター席もあります。


看板
看板もかわいい!
地下店へのアプローチ
中が気になって行ってみたくなる、地下店へのアプローチ

1階と地下、どちらに入るかしばし迷った末、今回は地下への階段を下りてみました。

店内
静かで隠れ家のような雰囲気に落ち着きます

地下店の空間は木の天井と壁に囲まれていて、テーブルやソファ、椅子も深い飴色を基調にまとめられています。BGMのない静けさ漂う店内は、居心地抜群です。

ライト
夕方からはバータイムになるそう

壁の上側は木、下側は角度によってグリーンに見えたり、ブルーに見えたりする風合いのよいタイルで、清水焼だそうです。看板メニューである「ハウスブレンド」とドーナツを注文すると、ダンディなマスターが豆を挽き、丁寧にハンドドリップしてくれました。茶道のお点前を彷彿とさせる、凛として流れるような所作につい見とれてしまいます。

ハウスブレンドとドーナツ
ハウスブレンドとドーナツ

珈琲は中深煎りで、カップを手にすると芳しい香りがふわり。ひと口飲むと、心身がほどけていくのを感じます。自家製ドーナツは昔ながらの味わいで、素朴な甘さ。珈琲とのマリアージュがたまりません。

珈琲豆は、自家焙煎する前の生豆の段階でハンドピックをするそう。丁寧に、丁寧に、その工程を重ねて抽出された一杯のコーヒーと一緒にゆったりと過ごす時間は、至福そのもの。老舗喫茶店の醍醐味ってこういう時間かもしれません。

昭和、平成、令和へと時代が移ろっても、大切に培ってきた技と感性、おもてなしの心を礎に長く愛されてきた老舗たち。ランチにおやつ、そして珈琲タイムまで、どこも居心地の良さを感じられたのは、決して偶然ではないのでしょうね。


今回の虫眼鏡スポット(Google map)