Vol.20 見上げてみると新発見さんぽ

Update: 2022.12.8
#虫眼鏡さんぽ

見上げてみると…

「虫眼鏡さんぽ」をはじめたのは、コートが欠かせない寒い季節。あれから時はめぐり、春を迎えました。冬に縮こまった身体をほぐしに、京都のあちこちを気の向くまま散歩することに。今回は、背筋をスッと伸ばし、顎をキュッと上げ、いつもの目線より高いところにあるものに注目。京町家や神社、商店街などさまざまな場所で見上げて出会ったものたちをレポートします。

京都御苑から祇園までのコースで出会った動物たち

3月下旬のある晴れた休日、京都御苑のまわりをぶらりと散歩。苑内に敷き詰められた玉砂利をザクザクふみしめながら歩くのって、なかなかのエクササイズになるかも。
そんなことを考えていると……。

薄紅色
やさしい薄紅色に春の到来を感じます

石鳥居をそっと包みこむ、可憐な桜の花!
静かな佇まいに惹かれて鳥居をくぐると、境内では桜や鮮やかな黄色のレンギョウが春の訪れを謳歌していました。
ご本殿の前で手をあわせたあと、どこからか「ニャ~」と猫の鳴き声が。
あたりを見渡してみても、声の主はいっこうに見つかりません。ふと目線を上に向けると……

祠の上
ご本殿の左側にある小さな祠の上に……!
ジャンプ
屋根から屋根へ、軽やかにジャンプ

三毛猫を発見! 行方を目で追っていると、地面にひょいっと飛び降りて、ご本殿の前でもう一度こちらを振り向いて「ニャー」。それから姿が見えなくなりました。
夢かうつつか……猫神様が降臨されたのかも?

ゴールデンウィークが開けたころのある日には、鴨川デルタのそば、出町桝形商店街の雑踏にまぎれて歩いていると……

軒先テントの下
お店の軒先テントの下を覗いたら……

ツバメの巣を発見! 大きな口を開けて鳴くヒナたちを愛おしむように、親鳥がいそいそとエサをあげていました。

ツバメの巣
こちらのカメラが気になる様子。ゴメンネ

あまりのかわいさに立ち止まって眺めていると親鳥が心配そうにソワソワしだしました。
親鳥さん、怪しい者ではございませんよ。
しばらくすると、警戒心がほどけたのか、自然な姿を見せてくれました。ヒナたちがみんな元気で巣立ちますように!
(後日談。1か月後に同じ場所を訪ねてみたら、巣は空っぽでした。無事に巣立って、今ごろは大空を自由に飛び回っているのでしょうね)

鴨川のほとりを歩きながら祇園の白川南通へ。石畳やさらさらと風に揺れる柳が京情緒を感じさせます。せせらぎに癒されながら白川に沿って歩みを進めていると、空から青鷺が大きな羽をはばたかせ、優雅に舞い降りてきました。

青鷺
舞い降りたのはこの場所。器用ですね

鷺の造詣美のすばらしいこと!日本画から飛び出してきたような美しい立ち姿です。
様子を見ていると、対岸の建物はどうやら和食料理店。
この鷺はきっと常連さんですね。いつもの席で「お造り一人前くださいな」とオーダーしたのでしょうか。店内を伺いながらじぃっと待っていました。

白川南通から巽橋を渡り、切通しへ。

祇園の切通し
祇園の切通しにて

今度は屋根の上に鳩のつがいを発見。瓦の色と調和しすぎ!居心地よさそうです。

嵐山モンキーパークにて
おまけ。干支の動物さがしの際に訪れた嵐山モンキーパークにて

毎日おつとめご苦労さまです!屋根の上の警備員

祇園のメインストリート、花見小路界隈を散歩。
目線をいつもより上げつつ歩いていると、京町家の屋根の上でにらみをきかせているお方に目が留まりました。

鍾馗
武器を手にして鬼の形相。戦闘モード!?

そういえば、京町家の上でよく見かける気がします。
調べてみると、この方のお名前は「鍾馗(しょうき)」さん。

鍾馗さんの歴史をひもといてみると……ルーツは、中国の唐の時代にありました。
絶世の美女と名高い「楊貴妃」のだんな様、玄宗皇帝にまつわるお話です。
玄宗皇帝が病に伏していたある日のこと。夢に鍾馗さんが現れ、病の元凶となっていた鬼を退治しました。夢から覚めた皇帝はみるみるうちに快復。ウワサが広まり、人びとは鍾馗さんを魔除けの神様として崇めるようになったのだとか。

なるほど!だから鍾馗さんは、どのお姿も強そうで、キリッと引き締まった表情なんですね。

鍾馗
注文住宅でしょうか、鍾馗ハウスを発見
鍾馗
お茶屋さんの上にも厳かな雰囲気の鍾馗さん

ひとりひとり姿かたち、手にする武器、お顔の表情まで違うのが面白いところ。
花見小路から細い路地に至るまで、建物ごとに立ち止まっては見つめて、を繰り返したのでした。

鍾馗さんは、その家の人のための守り神ではありますが、通りを行き交う人たちのことまで見守ってくれているかのよう。京町家が連なる景観、いつまでもこのままであってほしいです。

鍾馗
おまけ。後日立ち寄った丸太町通で宿の上にキャリーバッグを持った鍾馗さんがいました

花街・先斗町に潜む、迷路のような道標

鴨川
四条大橋からの鴨川の眺め

つづいては先斗町へ。あでやかな舞妓さんとの「お茶屋遊び」は夢のまた夢ですが、提灯がゆらめく路地を歩いているだけでも花街情緒が香っていいですね。

提灯のあかり
風情ある提灯のあかりに気分は上々

先斗町通を歩いていると、こんな案内板に遭遇しました。

看板
看板の文字にご注目

先斗町通から細い路地へと枝分かれする入り口付近に、掲げられていました。
文字は「通りぬけできまへん」。

好奇心がくすぐられ、ちょっとだけ細い路地を進んでみると、行き止まり。
案内板通り「通り抜けできまへん」の現実が待ち受けていました。

案内板
今度は「通りぬけできます」の案内板が

「通りぬけできます」の言葉に従って進んでいくと、飲み屋の看板がひしめくディープな路地裏が現れました。さらに進むと、先斗町のひとつ西側の木屋町通へ。
木屋町通へ通り抜けできるかどうか、の案内板だったのですね。

通り
通りの先に用事はなくても歩いてみたくなります

言葉の謎は解けました。
では、8とか5とか17とか、この謎めいた数字はいったい何……?

調べてみると、こちらの案内板、昭和時代に掲げられたもの。数字は路地の番号を示すのだそうです。1や14などどこを探しても見当たらない番号もありました。
昭和から平成、そして令和へと変わっていくなか、お店がなくなったり、看板のあった路地がなくなったり。街の姿も変わっていったのですね。
時の流れが染み込んできて、少し寂寥感を覚えた先斗町さんぽでした。

いつもより上を向いて歩いてみれば、新しい発見がいっぱい。
ひとつの出会いから興味がどんどん広がって、散歩がますます楽しくなりました。


今回の虫眼鏡スポット(Google map)