Vol.19 ヒミツの隠れ家カフェ その2

Update: 2022.11.8
#虫眼鏡さんぽ

ヒミツの隠れ家カフェ

京都に星の数ほどあるカフェ&喫茶店のなかで「隠れ家」をテーマに名店を探した「ヒミツの隠れ家カフェ」。第二弾の今回は、左京区の吉田山から中京区の街ナカ、そして下京区の島原まで。3つの区を横断する7km超のさんぽとなりました。

旧宮家ゆかりのカフェで優雅なひととき【カフェ真古館】

スタートは左京区の吉田山。京都の鬼門を守護する吉田神社や古刹・真如堂を擁する閑静なエリアです。吉田神社の境内にかかることから一帯は「神楽岡(かぐらおか)」と呼ばれています。

狛犬
宗忠神社の狛犬

中腹にさしかかったところに鎮座する宗忠神社には、逆立ちをした珍しい姿の狛犬が!
写真は口を開けた阿形の狛犬ですが、吽形の狛犬も逆立ちをしていました。狛犬といえば石像が一般的ですが、こちらは備前焼だそうです。
さて、神社を通りすぎると次に現れたのは……

門
壮麗な門は宮大工棟梁で文化功労者の西岡常一氏によるものとのこと

傍らに置かれているカフェの案内板に惹かれ、気後れしつつも門をくぐってみることに。ゆるやかな弧を描く坂を上がっていくと、手入れの行き届いた緑の中、品格の漂う建物がそびえていました。

国の登録有形文化財
国の登録有形文化財に指定

こちらは料理旅館吉田山荘。昭和天皇の義理の弟にあたる東伏見宮家の別邸として1932(昭和7)年に建てられたそうです。総桧造り、和洋折衷の瀟洒な建物で、屋根瓦の裏菊紋が皇室とのゆかりを伝えています。

もうひとつの建物
敷地内にもうひとつ建物が

敷地内に宮家時代に建てられたというもうひとつの館があり、現在はカフェ真古館として活用されています。

中へ
扉を開けて中へ
館内
木のぬくもりを感じる館内

三方の窓からやさしい光が降り注ぐ飴色の落ち着いた空間で、BGMのクラシック音楽に耳を傾けながら優雅な気分に。
ほどなくして注文したチョコレートケーキとブレンドコーヒーが運ばれてきて、視線を落とすと流麗な書が添えられていました。

美しい書
うっとりするような美しい書

鶯の谷より出づる声なくは春来ることを誰か知らまし  大江千里-古今集-

達筆の書は吉田山荘の女将直筆で、綴られる和歌は季節の移ろいとともに変わるそう。短冊の後ろには現代語訳も添えられていました。
なんて素敵!訪れた季節にぴったりの粋なおもてなしに感激です。

チョコレートケーキ
シンプルだけれど美味しさが際立つチョコレートケーキ

チョコレートケーキは卵や生クリームなど動物性素材を使わないヴィーガンケーキで、カカオ100%のカカオマスにメープルシロップや豆乳を加えてコクをだしているそうです。ひと口ほおばるごとに芳醇な香りがふわりと広がります。

1階
階段から1階の扉付近を見下ろす

クラシカルな雰囲気のなか上質なものたちに囲まれて昼下がりのひとときを過ごし、気分も上々。五感を呼び覚ましてくれる、素敵なカフェでした。


路地奥にたたずむ町家カフェ【café 火裏蓮花】

姉小路通から柳馬場通を少し上がったところ、建物の間に石畳の細い路地を発見。

路地
気づかず通り過ぎてしまいそうな路地
路地奥
石畳を歩いて路地奥へ

看板に灯りをともしたカフェらしき京町家の建物が見えたので路地の奥へと進んでみると、界隈には数軒の民家が建ち並んでいました。さらに奥は通り抜けできない袋小路。京都らしい趣がそこはかとなく漂います。

こちらのカフェは、「café 火裏蓮花(かりれんげ)」。路地奥という秘めやかなロケーションにもかかわらず、店内は学生らしき若者やマダム、常連さんらしきひとり客などで賑わっていました。テーブル席のほかカウンター席もあるので、ひとりでも気楽に過ごせます。

この日のスイーツメニューは、クラシックショコラやお抹茶ミルクケーキ、米粉シフォンなど。カレーでもない、ピラフでもないという特製「Bピラフ」のランチにも惹かれましたが、「大人のブルーチーズケーキ」と「オーガニック珈琲」をオーダーしました。

コーヒーカップと器
コーヒーカップや器も素敵
盛り付け
盛り付けも絵になります

「大人のブルーチーズケーキ」はブルーチーズの使用量がケーキの素材の半分を占めるという濃厚さで、個性的な香りと風味がクセになる味わい。プレートにあしらわれた、ほろ苦い自家製くるみのキャラメリゼや爽やかなオレンジソースがほどよいアクセントになって、コーヒーとの相性もぴったりでした。

店内
アンティークな雰囲気に落ち着きます

店主によると、建物は築150年!元は民家だったのがいつしか帽子屋となり、15年ほど前に火裏蓮花さんがこの建物を受け継いで、カフェとしてリノベーションされたそうです。

天井の梁や土壁、飴色の床やテーブルに囲まれたノスタルジックな空間で過ごしていると、時間が経つのがいつもよりゆっくりと感じられるから不思議です。

路地の入口
お店よりももっと奥から路地の入口を眺める

忙しい日々にこそ時間を作って訪れたい、そんな心ほどける場所でした。


島原に残る旅館のレトロ空間で夜カフェ【きんせ旅館 カフェ&バー】

カフェめぐりのラストは、京都駅の北西方面、かつて京都でいちばん古い花街として賑わった島原へ。素敵な隠れ家カフェがあると聞いて行ってみることに。
島原は新選組の活動拠点である壬生が近いことから、新選組の隊士たちをはじめ、坂本龍馬や西郷隆盛など幕末史に名を刻んだ人物たちも訪れた遊宴の町。京都には現在5つの花街が残りますが、かつては島原を含めて六花街だったそうです。

島原大門
華やかなりし頃の面影を残す島原大門

島原大門をくぐり、日没後の島原の町を歩くと、人の気配がほとんどなくとっても静か。地図をたよりに「きんせ旅館」を訪ねました。

外観
風情ある建物に到着

こちらの建物は江戸時代、和歌や踊りなど教養と芸事の両方に秀でた位の高い「太夫(たゆう)」が、お客様をもてなす「揚屋(あげや)」だったそう。

明治時代以降は旅館に。現在は1日1組限定で宿泊客を迎える旅館であり、夕方5時からはカフェ&バーとしても営業されているそうです。外から格子戸をのぞくと、営業中であることを示す黒板がさりげなく置かれているのみ。

中へ
営業中であることを確認して中へ

おそるおそる中に入ると、ステンドグラスがきらめくクラシカルな空間が現れました。

孔雀のステンドグラス
優美な孔雀のステンドグラスがお出迎え
店内
向かって左側の扉を開けて店内へ

店内
店内に入ると最初に見えるのがこの景色

ほの暗い部屋にキャンドルの灯りが揺らめいて、大人の雰囲気。100年の時を超え、タイムスリップしたかのよう。

店内の一角にカウンターがあり、ダンディなマスターが静かにグラスを磨いておられました。

店内
キャンドルライトに浮かび、大人の雰囲気

メニューは2種のスイーツからレーズンバターサンドをチョイス。
マスターに相談し、おともにはエアロプレスで抽出する珈琲を使ったカクテル「珈琲ネグローニ」を注文してみました。

店内
店内のどこを見てもステンドグラスが

木製の揺り椅子に座り、ジャズの調べに耳を傾けながら、ゆったりと過ぎていく非日常な時間。まさに隠れ家カフェの極みです。映画に出てきそうなこんな素敵な場所が、いわゆる“一見さんお断り”ではない、ふつうのカフェだというのがうれしいですね。
わざわざ足をのばしてもいいからまた訪れたい、そんな余韻に浸れたとっておきの場所でした。

吉田山の中腹に建つ山荘カフェから街なかの路地奥、そして、花街の面影を残す旅館のカフェ&バーまで。誰かに話したいような、ヒミツにしておきたいような、そんな隠れた名店ぞろいでした。


今回の虫眼鏡スポット(Google map)