Vol.14 謎さがしさんぽ その1

Update: 2022.03.10
#虫眼鏡さんぽ

コンパクトな京都の街を歩けば、必ずといっていいほど出会うお寺や神社。
今回は、お寺や神社の境内に潜むミステリアスなものに注目し、謎に迫ってみました。「謎さがしさんぽ」第一弾の今回は、金戒光明寺から安井金比羅宮、錦天満宮までの約4kmのさんぽです。

金戒光明寺でアフロヘアの仏像とご対面

今回のスタートは「黒谷さん」こと金戒光明寺(こんかいこうみょうじ)から。平安神宮の北側、小高い山の上にあります。

山門
1860年に建てられたという山門

重厚な山門をくぐり、その奥の石段をさらに上がっていくと、巨大な御影堂が現れました。お参りの前に手を清めようと手水舎へ向かうと……

手水舎
御影堂前の手水舎。なごみますね

手水舎にアヒルの人形が大集合!
情報をたどってみると……元はカメの人形が飾られていましたが、盗難に遭ってカメがいなくなってしまったそう。お寺の方がツイッターで悲しみをつぶやいたところ、アヒルの人形が大量に寄贈されたのだとか。お寺の方や参拝者たちを元気づけてくれたアヒル軍団なのですね。

おめかししたアヒル
おめかししたアヒルの姿も

鎧掛の松
御影堂と現在3代目の「鎧掛の松」

金戒光明寺は、浄土宗を開いた法然上人ゆかりのお寺。平安時代末期、比叡山での修行を経た法然が、この地に草庵を結んで念仏道場としたことにはじまります。

御影堂の東側に構える松の木「鎧掛(よろいかけ)の松」は、『平家物語』に登場する武将・熊谷直実ゆかりのもの。法然上人を訪ねてきた直実が、出家をする前に池で洗った鎧をこの松の木に掛けたそうで、戦の道を離れて仏の道へと歩み出す決意が示された場所。

さらに時が経ち、幕末には京都守護職に任命された会津藩の本陣が置かれ、新選組の誕生につながったのだそう。熱き志を抱く志士たちが駆け抜けた歴史の舞台のひとつでもあるのですね。

三重塔
奥にそびえる三重塔は重要文化財

境内東側、墓地の石段を上がり、徳川秀忠の菩提を弔うために建てられたという三重塔へと向かう途中、左手に圧倒的な存在感を放つ石像が!

インパクトのあるビジュアル
一度見たら忘れられないインパクトのあるビジュアル

SNSでも話題になった「アフロ仏像」はここにいらっしゃいました。
正式には、五劫思惟(ごこうしゆい)の阿弥陀仏というお名前。好んでアフロヘアにされたわけではなく、人々を救うために長い年月をかけて思考を重ねつづけた結果、髪がこれほどまでに伸びてボリューミーになられたのだそうです。

ちなみに、「五劫」とは時の長さを表す言葉で、一劫が「3年に一度(100年に一度の説もあり)、天女が約160km四方の大岩に舞い降りて羽衣で岩を撫で、その岩がすり減ってなくなるまでの時間」のこと。一劫だけでも気が遠くなるほどの長さなのにその5倍というから、もう「億」とか「兆」とか「京」とか、そんなレベルを超越しています。

人のためを想う心と、驚くほどの集中力で深める思考。五劫思惟の阿弥陀仏と向き合っていたら、背筋がしゃんと伸びた気がしました。


安井金比羅宮で悪縁を切って良縁を招く

金戒光明寺を後にし、琵琶湖疏水や小道を南下。
次なるスポットは安井金比羅宮(やすいこんぴらぐう)。「縁切り神社」と呼ばれる祇園のパワースポットです。祇園という場所柄、芸妓さんや舞妓さんもお参りに訪れるとか。

本殿
まずはご本殿に手を合わせてご挨拶
御神紋
御神紋は「丸に金字紋」と「八雲紋」

「縁切り」というと、恋愛にまつわる縁をイメージしますが、それだけではありません。
職場やプライベートでの人間関係の悩み、病気、アルコール、タバコ、賭け事などあらゆる「悪縁」を断ち切り、そののちに、「良縁」を結んでくれるそうです。
主祭神の崇徳天皇が自身に関わる一切を断って国の平和を願われたという故事が由来とのこと。

絵馬
境内には絵馬がびっしり
絵馬
毎年恒例の年中行事「櫛まつり」がモチーフの絵馬も

鈴なりに掛けられた絵馬をちょっと拝見すると、縁切りにまつわる切なる願いがしたためられています。

摩訶不思議な物体
摩訶不思議な物体を発見

境内をさらに奥へと進むと、オブジェのような謎めいた物体の前に行列ができていました。白い御札のようなものがびっしりと貼られていて、原型がわからないほど。中央には穴が開いて、向こう側が見えます。

神社によると、高さ1.5m、幅3mの絵馬の形をした巨石だそうです。御札のようなものは「形代(かたしろ)」といって、身代わりの御札。
参拝方法がちょっと個性的で、最初に形代に願い事をしたため、手に持って願い事を念じながら表側から裏側へくぐります。そうすると悪縁がスパッと断ち切れるのです。
つづいて今度は奥からくぐって元の場所に戻り、さいごに形代を碑にペタッと貼っておくと、願いが叶うそうですよ。

参拝中
くぐる順を間違えないように気をつけて

行列を見るとつい並んでみたくなるもの。順番を待ってくぐってみると、なんだか気分もすっきり。まとわりつく悪縁とはこれでサヨナラできたかも。


錦天満宮でビルにめりこむ鳥居の謎を解く

お次は、買い物客で賑わう錦市場をそぞろ歩いて、錦天満宮へ。

錦天満宮
錦小路通の東の端に位置する錦天満宮

学問の神様・菅原道真公を祀るお社で、通称「錦の天神さん」。学業成就のほか、商売繁盛や厄除けなどのご利益で親しまれています。現在の京都の町並みの礎となった豊臣秀吉の都市改造により、現在地に移転してこられたそうです。

華やかなたたずまい
商店街の鎮守社らしい華やかなたたずまい
獅子舞おみくじ
ご本殿手前に「獅子舞おみくじ」が

ロボット紙芝居
ロボット紙芝居も!さすが学問の神様です

境内にはおみくじを運んできてくれる獅子ロボットや、神社の歴史を教えてくれる紙芝居ロボットも!

錦の水
御神水「錦の水」もこんこんと湧き出ていました

「錦の水」で手を清め、本殿に手を合わせてお参りをしたら気分が晴れやかに。
空を仰ぎ見ようとふと目線を上げると……

石造りの鳥居
寺町通のアーケード手前に立つ石造りの鳥居

神社の前に立つ石鳥居が両脇のビルにめりこんでいる……!

鳥居が建物と一体化
鳥居が建物と一体化。世にも不思議な光景

どの角度から見ても錯覚ではなく、確かにめりこんでいます。
気になって神社の方にお尋ねしてみると、親切に教えてくださいました。

このミステリアスな事象のはじまりは昭和のはじめのこと。界隈の商業開発により錦天満宮の敷地が狭められ、参道両脇にビルが建つことに。開発者の方たちが鳥居の柱の幅に配慮して設計を行い、ビルの建築をはじめたつもりが……鳥居上部は柱の位置より左右の幅があるということに後で気づかれたようです。
ですが、神社の鳥居は神様がお通りになる道。壊したり削ったりするのではなく、鳥居をそのままにしてビルの壁を作ることになったそうです。

壁の向こう側は一体どうなっているの?と北側のビル2階にある占いの館にお邪魔してみると、鳥居の上部を発見!

秘密のパワースポット
秘密のパワースポット

錦天満宮についての説明文を添えてパワースポットとして祀っておられました。

時代とともに街の景色は変わっていっても、神社や神様を大切にしようという人々の思いは、ここにしっかりと刻まれ、後世に受け継がれていくのでしょう。

お寺や神社に秘められた「謎」。きっと、お寺や神社の数だけあるのかもしれませんね。


今回の虫眼鏡スポット(Google map)