Vol.11 すてきなレンガ建造物さんぽ その2

Update: 2022.02.15
#虫眼鏡さんぽ

レンガ建造物

「赤レンガ」の建造物を探して京の都をめぐり歩く「すてきなレンガ建造物さんぽ」。第一弾では、中京区の街なかから東山ふもとの南禅寺までをレポートしましたが、第二弾の今回は、西本願寺前から七条通を経て、ふたたび中京区の街なかへ戻ってきました。

異国情緒が漂う本願寺伝道院

第二弾のスタートは京都に17ある世界遺産のひとつ「西本願寺」の前。西本願寺といえば、親鸞聖人が開いた浄土真宗の本願寺派総本山ですね。御影堂門から境内をちらりとのぞくと、巨大なお堂が建ち、さすが総本山!の荘厳な雰囲気が漂っていました。

御影堂門
総門越しに御影堂門を望む

堀川通を渡り、総門をくぐって御前通を東へ進みます。通りの両脇にはお寺の門前町らしく仏壇や仏教書、仏具店を扱うお店が建ち並んでいました。そんな街並みのなか、赤レンガの建物が目の前に現れました。

純和風の建物と異国情緒あふれる赤レンガ
純和風の建物と異国情緒あふれる赤レンガの競演

エキゾチックなたたずまい
エキゾチックで味わいのあるたたずまい

傍らの案内板を見ると、この建物の名は「本願寺伝道院」といって国の重要文化財。内部は残念ながら非公開ですが、通りから外観のみ見学することができます。
今から110年ほど前の明治時代に真宗信徒生命保険会社の社屋として建てられたのだそうです。現在は浄土真宗本願寺派僧侶のための布教・研修道場として活用されているとのこと。

赤レンガに白のストライプ
赤レンガに白のストライプがお洒落

設計は「建築進化論」を唱えたという近代建築家、伊東忠太。西洋建築をベースにしながらも、屋根部分の「破風」に見られるように、日本の伝統的な様式を重んじた建物だそうです。

これまで虫眼鏡さんぽで紹介してきた赤レンガの「京都文化博物館」や「中京郵便局」は玄関のアーチ部分以外直線的な建物ですが、本願寺伝道院は、まるみのある屋上のドームがやさしい印象。中京郵便局のレンガは、長めのレンガと短めのレンガをリズミカルに組み合わせていましたが、こちらのレンガは同じサイズのものが整然と積み上げられています。

注意書き
「石像は文化財です お手を触れないように」の注意書きが

石像
入り口の両脇に据えられた石像

建物の周囲には、空想上の動物でしょうか、珍しい姿の石像が建物を守るように並んでいました。入り口両脇の柱に立つ石像は一見狛犬のよう。でも、狛犬といえば向かって右が口を開けた「阿形」、左が口を閉じた「吽形」ですが、こちらの石像は、右は口を開けているけれど舌をベーッと出していて、左は口を閉じてはいるけれど歯をイーッと見せています。遊び心あふれる石像ですが、建物だけではなくこの石像たちも文化財だそうです。由緒あるお寺の門前町で、思いがけず街角の文化財観賞を楽しめました。


まるで宮殿みたいな京都国立博物館

本願寺伝道院を過ぎて七条通を東へ。鴨川に架かる七条大橋を渡ります。

七条大橋
鴨川のほとりから橋の全景を眺めてみました

赤レンガではなく鉄筋コンクリート製ですが、アーチ型が優美な建造物ですね。誕生は大正2(1913)年で、鴨川に架かる橋でいちばん古い橋とのこと。2019年に国の有形文化財に登録されたそうです。

七条通をさらに東へ進むと、赤レンガを発見!京都国立博物館です。

七条通
七条通から東方面を望む

七条通沿いの外塀は、城郭を思わせる石垣の上に、エレガントな柵をそなえた赤レンガ。
なんとも個性的な和洋折衷の塀に魅せられます。

京都国立博物館
まるで宮殿のような趣き

京都国立博物館が開館したのは、明治28(1895)年。敷地の西側には、当時の正門がそのまま残っています。現在は七条通沿いの南門が入り口で、こちらの門は退館用。 門越しに噴水が見え、さらにその奥には堂々たるたたずまいの赤レンガ建築がそびえています。赤レンガの建物は、元は本館だった建物で現在は「明治古都館」。耐震化計画進行中につき、明治古都館の内部には入れません。耐震化が完了する日が待ち遠しい!

小窓
南門から見ると、屋根にはかわいい小窓も見えます

正門、明治古都館、そして石垣×赤レンガの外塀「袖塀」、すべて国の重要文化財!壮観です。

噴水
左は噴水があるとき、右は噴水がないとき

ちょっとおもしろい見どころも発見。噴水の水が吹き出ているときには見えませんが、水がピタッと止まると、噴水の奥にフランスの彫刻家・ロダンの代表作「考える人」の像が現れること。周囲の景色に溶け込んだ、屋外のアート鑑賞もいいものですね。


三条通でいちばん古い洋館、旧・家邊徳時計店

京都国立博物館を後にし、北上してふたたび街なかへ。「赤レンガ」さんぽのフィナーレにふさわしい、三条通へ戻ることに。

三条通
三条通でひときわ目を引く赤レンガ

三条富小路東入に建つ旧・家邊徳(やべとく)時計店へ。現在、店舗部分にはアパレルショップが入っています。

家邊徳時計店
いろいろな角度から眺めたくなる

1階の窓の上部が三連のアーチ、窓ガラスは平面ではなくて曲線を描いていて、窓の縁には欄間のような透かし彫りも見られます。

調べてみると、こちらの建物は明治23(1890)年に建てられたもので、国の登録有形文化財。
これまで虫眼鏡さんぽで出会った三条通の近代建築では、1928ビルが1928年築、京都文化博物館別館が1906年築、中京郵便局が1902年築。ということは、三条通では旧・家邊徳時計店が今年で132歳をお迎えになる断トツのご長寿!

正面外観
正面から見ると、左右対称

店舗部分から奥に立ち入ることはできませんが、奥には居住棟があり、坪庭や中庭のある純和風の京町家になっているそう。
調べているうちに出会ったセピア色の古写真を見ると……現在は2階建てですが、その上に時計台があったようです。

こんな素敵な洋館の中に、どんなふうに時計がディスプレイされていたのかなと100余年の時を超えて思いを馳せました。時代の最先端をゆく洋館の時計専門店を訪ね、時計を買い求めるというのは、当時の人たちにとってひとつのステータスだったのかもしれませんね。

京都文化博物館
三条通の京都文化博物館でゴール

第一弾の「中京郵便局」、「ねじりまんぽ」、そして南禅寺の「水路閣」、さらに今回の「本願寺伝道院」「京都国立博物館」「旧・家邊徳時計店」。あわせて6つの赤レンガ建造物をめぐりました。
建物の用途はそれぞれ異なるけれど、どれも人々の豊かな暮らしを支えてくれる、必要不可欠なもの。だからこそ、カタチとして残る建造物の意匠に人々の理想や夢を込め、こだわり抜いて造り上げたのかもしれません。
タイムマシンがあるならば、当時の建築風景をのぞいてみたい。そしてこれらの赤レンガの未来の姿にも会ってみたい。そんな空想を楽しんで、今回のさんぽは終了となりました。


今回の虫眼鏡スポット(Google map)