Vol.10 すてきなレンガ建造物さんぽ その1

Update: 2022.02.07
#虫眼鏡さんぽ

レンガ建造物

京都の街なかや社寺の境内を歩いていると、時の経過とともに味わいを増しつづけているんだろうな、そんなふうに感じる景色に出会えることがあります。赤レンガの建造物もそのひとつ。「虫眼鏡さんぽ」では、これまで三条通沿いに建つ「1928ビル」や「京都文化博物館別館」、鴨川西詰の「東華菜館」などの洋館に注目してきましたが、今度は「赤レンガ」の建造物を探して歩いてみることにしました。
第一弾は、中京区の街なかから東山ふもとの南禅寺までをレポートします。

レトロとモダンが融合する中京郵便局

スタートは、近代建築が点在する三条通。江戸と京都をむすんだ東海道の西の起点・三条大橋を擁する三条通は、古くからたくさんの人々が行き交うストリート。明治時代以降には界隈に郵便局や銀行の瀟洒な洋館が建てられて経済が発展し、ますます賑わったそうです。

中京郵便局
中京郵便局は現在京都市登録有形文化財。こちらは南側

まずは、東洞院通と三条通の北東角に建つ「中京(なかぎょう)郵便局」。「京都郵便電信局」の局舎として建てられたのが1902年のことというから、もう119歳になる超・ご長寿さん!です。
深みのある赤レンガをベースに、窓枠や柱の白い石材がアクセントになって、とてもスタイリッシュ。建築様式は、「ネオ・ルネサンス様式」といって、15~17世紀のはじめにかけてイタリアを中心にヨーロッパで広まった「ルネサンス様式」が19世紀前半になって再注目され、進化した様式だそうです。ほかに日本で有名なネオ・ルネサンス様式の建物は、「大阪市中央公会堂」とのこと。赤レンガと白い石材の組み合わせが一緒ですね。

2階の屋根
2階の屋根の上にも青銅色の素敵な意匠が見られます

ATMを利用しようと中に入ると、外とは真逆のザ・郵便局な現代空間が広がっていました。
局内の一角に建物についての資料コーナーも。昭和の時代に取り壊しのピンチを迎えたものの、外観(ファサード)はそのまま残して建物の中だけを新しく建て替える、というスゴ技を取り入れることで歴史的景観の保存に成功したそうです。北側の新局舎は2階建てですが、旧局舎の内部は3階建てになっているというのも驚きです。

外観
家から近くなくてもわざわざ切手を買いに行きたくなるこの佇まい
外観
三条通と東洞院通の交差地点

きっとこれから何年も、何十年も時を重ねていって、人々の新たな知恵と技術で守り継がれ、朽ちるどころか味わいを増していくことでしょう。街角にそびえる壮大なアンティークといってもいいかも。散歩しているだけでこんな景観が楽しめるなんてなんたる贅沢。


時空がゆがむ!? ねじりまんぽ

歴史ある三条通沿いを歩けば、ほかにも赤レンガに出会えるかも?と、ひたすら東へ。地下鉄蹴上駅1番出口の近くで赤レンガのトンネルが目にとまりました。ノスタルジックなビジュアルに惹かれ、くぐってみることに。
中の壁をよくよく見ると、ねじれるようにレンガが積み上げられていました。トンネルをくぐり抜けたら異次元の世界が広がっていたりして……ついそんな想像をしてしまいたくなる不思議なねじり構造です。

西側の入り口
西側の入り口。学生たちの通学路にもなっている模様
トンネル内部
トンネル内部。夜だとちょっとコワイかも……?

横にあった立て看板を見ると、「ねじりまんぽ」という名前で、いまから133年前に造られた明治時代の遺産でした。「まんぽ」というのは、一見外来語っぽいですが、古い日本語で、トンネルという意味。

積み方
バリエーション豊かな積み方が楽しい

東側の入り口
ねじりまんぽ東側の入り口

両方の入り口上部には、レトロな書体の文字が。これは、建設当時の京都府知事・北垣国道による筆文字。西側は「雄観奇想」と書かれています。東側はほとんど消えてしまっていてわからなかったのですが、調べたところ、この看板(「扁額(へんがく)」と呼ぶそうです)は、かつて界隈で作られていた「粟田焼」製。西側の「雄観奇想」は、「見事なながめとすぐれた考えだ」という意味。東側には「精神を集中して物事に挑めば何事でも成し遂げられる」という意味の「陽気発処」の文字が書かれていたそうです。
赤レンガがらせん状に積まれている理由は、琵琶湖疏水を往来する舟を、地形の高低差を越えて運航させるために造った傾斜鉄道(インクライン)がトンネルの上部に存在したため、強度を高める必要性からこのような工夫がなされたそう。

東側入り口横の坂道を上ってみると、傾斜鉄道の廃線跡がありました。

廃線跡
映画の主人公になった気分で廃線跡を散歩

フォトジェニックな南禅寺水路閣

南禅寺

続いては、まぶしい緑に包まれた南禅寺へ。南禅寺といえば紅葉名所の印象がありましたが、緑の季節も清々しい気分になれるなぁ……そんなことを考えながら広い境内をぶらりと歩いていたら、赤レンガのアーチ橋が目の前に現れました。

水路閣
ここが日本であることを一瞬忘れてしまいそう

立て看板を見ると、この橋は「水路閣(すいろかく)」という名の水道橋。明治23年に完成したものというから、さきほどの「ねじりまんぽ」の2年後に誕生した明治遺産です。
東山の山並みの向こうにある、日本でいちばん大きな湖・琵琶湖と京都をむすぶ琵琶湖疏水事業の一環で着工。西洋から教わった技術を参考にしながらも、設計から完成まで日本人の手だけで造り上げたものとのこと。技術大国日本の原点を見るようです。

水路閣
どこまでもアーチが続いているみたい

長い時を経た赤レンガの色合いと、周囲の瑞々しい緑との対比がなんともいえない良い味わい。側面から見てもアーチ型ですが、橋の下に立ってみてもアーチ型の柱が窓のように連なっています。顔をひょっこりのぞかせて撮影を楽しむフォトスポットになっていました。

水路閣
反対側の石段に上がって水路閣を眺める

橋をくぐって上に行ってみると、この橋が「水路閣」と呼ばれる由縁を実感しました。

琵琶湖疏水
絶えまなく流れていく琵琶湖疏水

橋の上には琵琶湖疏水が勢いよく流れていたのです!131年経ってもいまだに現役で大活躍している立派な水道橋でした。
水の音とどこからともなく聞こえてくる鳥のさえずりがあいまって、清々しさ満点。

「中京郵便局」、「ねじりまんぽ」、そして南禅寺の「水路閣」、どれも人々の技術と心意気により守り継がれてきた素晴らしき建造物。この日は午前中の早い時間の散歩でしたが、きっと西日に照らされて赤みを増す夕刻も美しいかも。時間を変えてまたリピートしたくなる散歩でした。


今回の虫眼鏡スポット(Google map)